セピア色の友(61号)の丸さんと、彼が勤務するM放送の東京支社がある パレスサイドビルのラウンジで一杯飲みながら食事をしました。 そのときに丸さんから「そんなに阪急ブレーブスファンだったのなら、これをあげるよ…」 と一枚のDVDを貰いました。
でもそれは、どうみても恋愛ドラマのようで、おまけに非売品という表示まであります。 そもそも我が家にはDVDプレーヤーがありません。 パソコンからなら見る事が出来るのでしょうが、その習慣が私になかったので しばらく、そのままにしていました。 しかしインターネットから【レイン・メイカー】を見てしまって(88号)、 パソコンで映画を見る事に、まったく抵抗がなくなった私は、 そのDVD【ココニイルコト】を見る事にしました。
あらすじは先週ご紹介した【盲導犬】と違って、とても判りやすいストーリーです。 東京の広告代理店で駆け出しのコピーライターをする相葉志乃が、ある日突然、社内でよばれ、 上司である部長の夫人(創業者の娘)から手切れ金?の50万円が渡されます。 「大人なら何も聞かないでね、でもあなた体温低そうね…」 相場志乃を演ずる真中瞳は久米宏のニュースステーションで一時期スポーツ・コーナーで キャピキャピ美人キャスターとして出ていましたが、ココでは体温が低そうな女性を好演しています。
『願ったり信じたりしても無駄、そう思っていれば傷つかずにすむ』… 志乃は幼い時の体験からそう信じて自分を守ってきたのです。 大阪支社へ飛ばさた相葉志乃は、同じ日に中途入社してきた前野クンの口癖である、 「ま、ええんとちゃいますか…」にはげまされます。
【阪急ブレーブス】が登場するのは料亭のシーンです。 料亭に上司と志乃と前野クン、そしておもちゃ会社のコテコテ大阪人風の社長の4人が静かに座っています。 社長の隣で無愛想にしている志乃に上司はお酌をするよう目配せして 「この相葉は東京のクリエイティブから来たばかりでして…」と紹介します。 社長は「ちょうどよかった、こんどの我が社のクリスマス商戦のCMなんや、見てーな」と 一枚の紙切れを志乃に渡します。 はじめは遠慮する志乃ですが、是非意見を聞きたいといわれ、じっとコピーを見つめて、一言いいます。 「下品ですね」
上司は飲みかけのお酒をブツと吹きます。 「これあんたの会社から出たコピーやで…」 「でもクリスマスのおもちゃのコピーに”ナイスバディー・ドン・ドン”はないでしょう!冗談ですよね」 この酒席はどっちらけになりそうな時で、前野クンが社長に突然、質問をします。 「社長さん! 10月23日は何の日かご存知ですよね?」 「誰に向かって聞いとるんや!我が阪急ブレーブス最後の日やないか!」 コテコテ社長の目が今までとまったく違ったものになってきます。 「実はこの相葉も10月23日生まれでして…でも1975年生まれなんです」 「75年と言ったら赤ヘル軍団を破って初めて日本一になった年や!」
二人の阪急談義はどんどんはずんで行きます。 阪急ブレーブスを原体験している私にはセリフ内容の間違が少し気にはなりましたけど、 こんな楽しい会話をした経験は一度もありません、話す相手もいなかったのです。 私はスクリーンに飛び込み会話に飛び込みたい衝撃にかられます。(^_^) (22号)(37号) このシーンの全セリフは今では私は全部そらんじているほどです。
2時間の映画の中で阪急ブレーブスが出てくるのは、このシーンだけです。 でも、超少数派だった阪急ファンにとって、このシーンのインパクトは相当なものです。 丸さんが私にわざわざプレゼントしてくれた価値は充分に伝わります。
社長は大変なご機嫌になって、志乃にCMの作り直しも依頼します。 「借りとく」。 料亭からの帰り道、窮地を救われた志乃の言葉に前野クンは答えます。 「ま、ええんとちゃいますか…」
私がこのDVDを見て感動したのは、この阪急ブレーブスのエピソードも含めて ”大阪”をとても上手く伝えながら、抑えた演出の中で、微妙な距離感をおいた二人を 面白く、美しく、描いている、邦画ならではとおもう作品だからです。 したがって、この映画では阪神ファンではなく阪急ファンでなければ美しくないのです(^_^)
志乃がおもちゃ会社のCMコピーを完成させ、その雪景色のロケに行っている時に 前野クンは病院の屋上でひなたぼっこをしながら静かに息を引き取ります。 […]