2004年2月16日004号 たこのはなし

私がYUKIと結婚するちょっと前の話です。
スーパーの鮮魚売り場の”たこ”を私が「美味しそうだネ」と言ったことから”事件”は起きたのです。
YUKIは大きな声で叫んだのです「エッ!た・たっこってあの変な生き物!た・食べれるんですか!」と。
店員もお客様も笑っています、私はYUKIの手を引いて売り場を逃げ出すように後にしました。
それから、二人っきりになって大変です。
「たこを食べたことはないのか?」「あんな気持ちの悪いもの食べるわけないでしょ!」
「寿司の盛り合わせには必ずあるけど…」「お寿司は食べなし、宮崎(YUKIの実家)にはない!」
の一点張りで、日本の食文化に根ざした”たこ”の存在を一切認めないのです。
しかも、この国で三十余年も暮らし続けている純粋な日本人がです。

それから数ヵ月後、YUKIの宮崎の実家に初めて訪問した時、早速お寿司の盛り合わせと出会わせました。
そこにはごく普通に…ごくあたりまえに…たこもあるのです。
私は恐る恐るお義父様に聞きました「昔は宮崎には”たこ”は無かったのですか?」
お義父様は「宮崎にだって”たこ”ぐらいは昔からおる!」と不機嫌そうに一括されてしまいました。
結婚の挨拶に来るそうそうバカな事を聞く、とんでもない奴だとお義父様は思われたことでしょう。
でも、とんでもないのはYUKIなのです。
 
養老孟司の『馬鹿の壁』という本で、人間の脳は計算機のようなもので、脳の中にある”係数”が外部からの 
情報と掛け合わされて認識する仕組みになっており、その”係数”がもしゼロであったら外からどんな多くの
情報があっても、ゼロと掛け合わされるので答えはゼロ、すなわち何を見ても、何を聞いても認識されない
ことになる…というような事が書いてありました。
すなわちYUKIは食べ物に対する事はほとんど興味がなく、係数ゼロがとても多い人だったのです。
もう二十余年一緒に生活していますが係数は0.2ぐらいには上昇したものの、未だに何を食べて生きいるのか
正体不明なのです。

そして、もうひとつ係数ゼロのジャンルがあるのです。
それは同世代であれば懐かしいテレビや映画・流行歌の話が出来そうですが、まったく通じないのです。
元祖テレビっ子で芸能通の私が少しでも、その頃の話題や流行歌を口にすると
「ほんとうに、そんなくだらないコトをよくご存知なのですね」と心からバカにされてしまうのです。

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